14章 社会的認知
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14-1. 原因帰属
14-1-1. 他者の行動の原因
他人の行動の原因を正確に推測する必要がある
行動の原因の推測は社会環境に適応するために重要
14-1-2. 帰属理論
帰属理論(attribution theory):他者の行動の原因を合理的に推測する理論(Heider, 1958; Kelly, 1967)
状況帰属:e.g. 1回目no、2回目yes →1回目は用事があったという状況に帰属できる
対象帰属:e.g. 2回目もno、他の人のときyes→自分を嫌っている可能性、自分という対象に帰属
傾性帰属:誰が誘ってもno → 非社交的な人物、その知人の性質(傾性 disposition)に帰属
14-1-3. 1回の観察
実際の社会生活では何度も観察できる場合はめったにない
帰属理論では割引原理(discounting principle)という方法が提案された
今念頭にある原因とは別にもっともらしい原因が他にある場合は、今念頭にある原因の可能性を割り引くという推定
e.g. 招待→葬儀で行けない
社会的な慣習なので状況が真である可能性は高い
自分を嫌っているという対象帰属や非社交的な人物だという傾性帰属は割り引く
割増原理(augmentation principle)も提案されている
他の原因候補画素の行動を起こりにくくさせているにも関わらず、実際にその行動が起こったからには今念頭にある原因がその行動を起こさせたに違いないと推定
e.g. その知人の昇進を左右できる立場にあるのに招待を断られた
妨害的な状況があるにも関わらず、その状況の影響を打ち消すほどに強かった対象への帰属を割りましたことになる
原因帰属は合理的な推定方法だが、人間が行う原因帰属は合理的ではない場合があることがわかっている
14-2. 対応バイアス
14-2-1. 対応バイアス
対応バイアス(correspondence bias):他者の行動の原因を推定する時、内部要因(正確、態度、能力など)を重視して、外部要因(状況)を軽視する、というバイアス
14-2-2. 代表的な実験の手続き
対応バイアスの代表的な研究(Jones & Harris, 1967)
カストロに批判的な文章と擁護的な文章、自由選択条件と強制割当条件で文章作成者は本心ではどれぐらいカストロを支持しているかを推測させる
14-2-3. 実験の結果
自由選択条件
文章の内容に即した推測
この推測は合理的
強制割当条件
本心はわからないはずなので、擁護も批判も差はなくなるはずだが、実際には文章の内容に即した態度を推測した
強制的に書かされているという状況をあまり考慮せずに、書き手の内的な傾性に帰属している→対応バイアス
14-2-4. 不十分な割当
強制割当条件では自由選択条件に比べて擁護と批判の差は縮まっている
状況要因が多少は考慮された
とはいえ、状況の強制力は極めて強かったと考えるべきであり、大きな差が残っているということは状況が十分は考慮されなかったこと
不十分な割引(insufficient discounting):割引原理がうまく働かず、状況要因の影響が十分に割り引かれずに傾性要因に過剰な原因帰属がなされた
14-2-5. 対応バイアスの普遍性
多くの研究から対応バイアスは非常に強固でなかなか消えない事がわかっている
ある状況が特定の行動を強制することを自分自身で体験した場合ですら、同じ状況に置かれた他者の行動については、その人の傾性が原因だと考えてしまう
対応バイアスは特定の傾性や状況だけに限って現れるものではないこともわかっている
状況要因を軽視して、傾性要因を重視するという傾向は普遍的に見られる傾向
そのため、基本的帰属錯誤(fundamental attribution error)とも呼ばれる
対応バイアスは個人主義的な欧米人に特有のバイアスであって集団主義的な日本人には見られない、見られたとしても微弱でたやすく消えてしまうという主張がされたこともあった(北山・増田, 1997)
日本人も欧米人と同様に強固な対応バイアスを示すことが確認されている(外山, 1998, 1999, 2000)
14-3. 対応バイアスと情報処理
14-3-1. 対応バイアスの情報処理プロセス
対応バイアスはどのような情報処理プロセス化
ギルバート(Gilbert, 1989)の3段階モデル
第1段階:カテゴリー化
その行動がどのようなカテゴリーにあてはまるかを判断する
自動化されており注意不要
e.g. これはカストロを擁護する文章だ
第2段階:傾性推測
そのカテゴリーに対応する傾性を推測する
自動化されており注意不要
e.g. 書き手はカストロを支持している
第3段階:修正
状況を考慮して傾性推測を修正する
この情報処理は注意を向けなければ行われないと仮定
e.g. 試験の答案なのだから本当にカストロを支持しているわけではないかもしれない
注意を向けられない状況では第3段階の修正が不十分になり、対応バイアスが大きくなった(Gilbert et al., 1988)
14-3-2. 対応バイアスの原因
対応バイアスが生じるのは傾性への原因帰属の方が優先されてしまうため
なぜか
人のほうが状況より目立つからだという説明
実験的に支持されている場合もある
もう一歩踏み込んで、「人に注意が向くと、なぜその人の性質が原因だと考えることになるのか」
カテゴリーというものの基本的な性質と関連している?
14-3-3. カテゴリー
老人に席を譲った人→親切な人だと思った=親切な人というカテゴリーに当てはめた
カテゴリーを使うのは過去の経験を現在の適応に活かすため
カテゴリーは基本的には事物に内在する一定した性質に基づいて作られる
動物の性質は基本的に遺伝によって決められているので実際問題としては一定している
14-3-4. カテゴリーと対応バイアス
カテゴリーは人間の認知の基本的な方式
人間を認知するときもカテゴリーを使う
カテゴリーのもとになっている性質はその人に内在する一定した性質だと想定してしまうことになる
動物と違い、人間はいつも遺伝的に決められた一定の行動を取るとは限らない
状況が大きく変化すれば行動の方も大きく変化する
人間の場合は状況の重要性も格段に大きくなるが、カテゴリーは事物に内在する一定の性質を前提とした認知方式なので、傾性への帰属をすることになってしまう→対応バイアスが生じる
14-4. 対応バイアスと性格認知
14-4-1. 性格の認知
対応バイアスは日常的な性格認知だけでなく、心理学者の専門的な判断にも影響を及ぼしてきたのではないか
性格心理学の性格検査→日常的な状況でも検査という状況でとったのと同じ行動を取るはずだ
そうとは言えないのではないか
14-4-2. 「人か状況か」論争
スタンフォード大学の心理学者ミシェル(Mischel, 1968)「性格と行動とのあいだの相関係数は大きくてもせいぜい0.3程度だ」
相関係数:2つの変数のあいだの比例的な(線形)関係がどれだけ強いかを表す指標。0-1。
ミシェルの指摘をきっかけに性格心理学と社会心理学の境界で20年以上にわたる大論争が繰り広げられることになった(佐藤・渡邉, 1992)
一貫性論争(consistency debate)とも呼ばれる
数多くの実証的研究が行われ、議論も百出した。
性格検査が想定してきたほどには性格は行動を強く規定してはいないことも明らかになった。
個人の行動をほんとうに正確に予測したいのであれば、その個人をよく知っている何人もの人が、さまざまな状況で、その個人の様々な行動を観察しなければならない(Kenrick & Funder, 1988)とまで言われるようになった
性格が行動を決定すると考えられていたのは対応バイアスと考えられる
14-4-3. 国民性、民族性、人種
集団的な行動の原因を推定する場合にも対応バイアスは生じる
ナチス→ドイツ人の残虐な国民性に帰属
アメリカの心理学者ミルグラム(Milgram, 1974)はアメリカの市民でもたやすく生じることを実験によって証明
実際に2004年にイラクのアブグレイブ刑務所における残虐行為が発生した
ミルグラムと同様の実験を行ったフランスのテレビ局はフランス人でも同様であることを見出した(Nick & Eltchaninoff, 2010)
人間に内在する性質による説明の最たるものは社会進化論に代表される人種論
白色人種の優秀性→制度的な人種差別を支えるイデオロギー
近代における西欧の優越は西欧人に内在する優れた能力によってしか説明できないのだろうか?
外在的な要因によって説明できるということを示したのがジャレド・ダイアモンド(Diamond, 1997)
銃・病原菌・鉄
人種間に能力の違いを仮定しなくても、環境の違いにもとづいて軍事力や技術力の違いを説明できる
ダイアモンドの説明は広範な実証的資料にもとづいているが個々の事実認識については今後数十年にわたって検証が続けられ、様々な議論が交わされることだろう
なぜこれまで人種による説明が支配的だったか
西欧人が世界を征服していくという行動を目にした時、対応バイアスが作用すると、西欧人に内在する性質に帰属されることになる